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『明治維新という過ちー日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリストー』


原田伊織、毎日ワンズ、2015年1月

 改訂増補版ですが、NHKの大河ドラマ「花燃ゆ」を意識したに違いない同年1月出版。題名には当初から興味を持ったのですが、副題や本の広告文に胡散臭さを感じ読むのをためらいました。ベストセラーの1つになっているというのでやはり気になり、図書館で昨年の10月に予約し、やっと入手。
 319頁の薄い本なのに、引っ掛かることが多すぎて三日もかけて読みました。

 著者の経歴を調べると「作家。クリエイティブディレクター。昭和21年京都・伏見生まれ。近江・佐和山城下、彦根城下で幼少年期を過ごし、大阪外国語大学を経て広告、編集制作の世界へ。現在も、マーケティングプランナー、コピーライター、クリエイティブディレクターとして活動している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)」というのがありました。
 
 著者の思い入れが強すぎる本で著者自身のことを何度も書いています。井伊直弼にゆかりのある彦根育ちだと複数回書いています。母親から強烈な武士道教育をされたこと、とくに小学生の時に切腹の作法を教え込まれたことなど、育ちそのものがこの著者の思考法を形成したのだと盛んにアピールします。
 著者にとって一番大事な判断基準は武士道(精神)です。維新の主役とされている下級武士や百姓など庶民を見下すエリート意識が鼻につきます。江戸時代のシステムを過大評価します。右翼が書いた本と切って捨てるのは簡単なのですが、本当にそうだなと納得出来ることがいくつもあり、最後まで読んでしまいました。


 WEBで検索するとたくさんの書評があり、それぞれの思いが書いてあって楽しめました。取り上げるテーマも重なりあっていて今更、新しい書評でもないのですが・・・・。

 「勝てば官軍」、幕末・明治以降の歴史はすべて薩長を美化するようにゆがめられているという。ある程度は真実だろうなと思います。

 「廃仏毀釈」というのは「明治維新」を象徴する言葉だそうです(TNはそれを意識したことはありませんでした)。「廃仏毀釈」運動で酷い文化財破壊行為があったということです。廃仏毀釈という言葉は知っていましたが、ここまで酷い仏教施設への無差別・無分別な攻撃・破壊活動があったことを始めて知りました。

 吉田松陰はテロリストの親玉でアジテータ、その弟子の高杉晋作や久坂玄瑞はテロリストというのがこの本で一貫している立場。長州のテロリストの大半が武家の倫理観とは縁遠い出自のもの。おまけに20歳前後の若造。京に集結した長州のテロリスト達がれっきとした武家ならあのような酷いテロは起きなかったと主張する。
 テロリストだったというの認められるかも知れないが、「れっきとした武家うんぬん・・・」にはついていけません。しかし、高杉に育てられた奇兵隊の生き残り達が戊申戦争で東北で繰り広げる残虐行為は目を覆うばかりです。

 「第五章二本松・会津の慟哭」は感動ものです。気持ちが悪くなる残虐行為が詳しく描かれます。日本人が直視しなければならない歴史です。ここだけでは心して読むべきです。「いつの時代も中央のために働かされてきた奥羽の宿命めいたものを感じ、ついつい東京電力の福島に対する犯罪ともいうべき事故にまで思をはせてしまうのである。」という著者の思いにはまったく同感です。

 あまり本筋とは関係のない話ですが、幕末の英雄「坂本龍馬」を長崎・グラバー商会の営業マンと軽蔑しきっています。今人気の五代友厚もグラバー商会を後ろ盾にしていたので、グラバー商会の日本に与えた影響というのが気になってきました。

 「松蔭の外交思想は北海道を開拓し、カムチャッカからオホーツク一帯を占拠し、琉球を日本領とし、朝鮮を属国とし、満州、台湾、フィリピンを領有すべきというものだった。その後、長州閥の帝国陸軍が松蔭の主張通りの侵略戦争を実施し、日本を滅ぼした。」というのがこの本の副題の意味でした。

 いろいろ考えながら読みました。司馬遼太郎の著作やNHK大河ドラマだけで日本史を知っているつもりになるのは危険だということだけは分かりました。

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